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大阪高等裁判所 昭和34年(ネ)1373号 判決 1962年12月26日

控訴人 木村きくゑ

被控訴人 寺井婦じゑ 外三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「(1) 原判決を取り消す。(2) 被控訴人寺井は、控訴人に対し、原判決添付物件目録記載の(イ)及び(ロ)の各物件につき、それぞれ大津地方法務局瀬田出張所昭和三三年一〇月六日受付第二、二八四号及び同年一二月二二日受付第二、九二七号を以てなされた各売買による所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。(3) 被控訴人山野は、控訴人に対し、同目録記載の(ハ)の物件につき同出張所同年一〇月一日受付第二、二三六号を以てなされた抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。(4) 被控訴人長尾は、控訴人に対し、同目録記載の(ニ)の物件につき同出張所同年一〇月四日受付第二、二六四号を以てなされた売買による所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。(5) 被控訴人西武鉄道株式会社は、控訴人に対し、同目録記載の(イ)の物件につき同出張所同年一二月二七日受付第三、〇三三号を以てなされた売買による所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。(6) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴人等の各訴訟代理人は、いずれも控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出援用認否は、被控訴人寺井、同山野、同長野三名の訴訟代理人に於て「亡山野竹五郎の遺産についてなされた被控訴人等三名主張のいわゆる第二次遺産分割協議が、第一次遺産分割協議(右山野竹五郎の相続人である被控訴人寺井が、共同相続人である訴外山野富造の後見人たる資格で、これを代理して参加成立せしめたため、利益相反行為にあたるもの)と同一の結果を実現するためにとられたものであるために、仮に右訴外山野富造の相続権を害する脱法行為として無効であるとすれば、共同相続人各自は法定の相続分に応じて被相続人山野竹五郎の本件(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)の相続財産を共有する状態にあつたものというべきところ、控訴人は、右各物件につき、それぞれ控訴の趣旨(2) 、(3) 、(4) の各登記原因にかゝげた売買及び抵当権設定行為をなしたのであるから、右行為は少くとも控訴人の共有持分の限度で有効であつて、これにより控訴人は右(イ)、(ロ)、(ニ)の各物件についてはその共有権を失い、又(ハ)の物件については自己の持分につき有効に抵当権を設定したものである。従つて、仮に第二次遺産分割協議が無効であるとしても、控訴人の本訴請求は、自己に利害関係のない他の共同相続人の相続分にもとずいてその売買及び抵当権設定の效力を争つていることに帰着して許されない。」と述べた外は、原判決事実摘示のとおりであるから、こゝにこれを引用する。

理由

当裁判所は控訴人の本件各請求はいずれも理由がないものと判断した。その理由は、原判決七枚目表六行目と七行目との間に左記(一)の記載部分を、又原判決八枚目裏七行目と八行目との間に三として左記(二)の部分を附加する外は、すべて原判決理由のとおりであるからこゝにこれを引用する。

(一)  右認定事実によると、本件各物件を控訴人の単独相続とする第二次遺産分割協議(乙第二号証参照)は、利益相反行為にあたる第一次遺産分割協議(乙第一号証参照)と同一の結果を実現するための便宜的脱法行為であるから、右第一次遺産分割が訴外山野富造の後見人である被控訴人寺井のなした無権代理行為として、右訴外人の適法な追認がない限り右訴外人に対しては無効であると同様に、右第二次遺産分割協議について被控訴人寺井が右訴外人の後見人として同人を代理し右協議内容に同意した行為も亦、同様に無権代理行為として右訴外人の適法な追認がない限り右訴外人に対しては無効であると解すべきものと考える。併しながら、本件に於ては前記の如く被控訴人寺井、山野、長尾三名は、控訴人が本件各物件を単独相続してその所有権者となつたとの控訴人の主張事実を認め、これを前提とするその後の右各物件についての物権変動の有無に干する紛争の解決を求めているのであるから、控訴人の右主張を被控訴人三名が認めたのはいわゆる権利自白にあたるものと解すべく、このように権利自白のなされた場合には、弁論にあらわれた資料によつて当該権利取得が公序良俗に違反するものと認められる場合は格別、そうでない限りは仮りにその経過によればその権利取得の効果が生じない場合でも裁判所は右自白に拘束されてこれと異る判断をなし得ないものと考えるところ、本件の如き後見人と被後見人との間の利益相反行為について後見人の法定代理権を制限した民法第八六〇条の違反行為は、無権代理行為として、その効力が論ぜられるに止まり、公序良俗違反行為とは言えないから、被控訴人三名の右権利自白に拘束されて控訴人が本件各物件を単独相続したものではないと判定することは許されず、従つて控訴人が本件各物件の単独所有権者となつたことを前提として判断を進めていくべきものと考える。

(二)  仮りに、控訴人が本件各物件を単独相続してその所有権者となつたということについての前記権利自白に裁判所は拘束されることなく、控訴人が本件各物件を単独相続する遺産分割は前記認定の経過に照して利益相反行為にあたり無効であつて本件物件についてはいまだ遺産分割が有効になされていないものとして判断を進めていくべきものとすれば、控訴人は右各物件につき相続分に応じた共有持分を取得したに過ぎず、その各単独所有権を取得したものではないから、右各単独所有権を取得したことを前提とする控訴人の本訴請求は理由がないのみならず、右各物件につき単独所有権を有するものとして控訴人がなした所有権移転並びに抵当権設定行為は、少くとも控訴人が取得した本件各物件の共有持分については有効と解すべく、従つて控訴人は本件(イ)、(ロ)、(ニ)の各物件についてはその共有権を失い、又(ハ)の物件については自己の持分につき有効に抵当権を設定したものというべきであるから、控訴人の本訴請求は、自己に利害関係のない他の共同相続人の相続分にもとずいてその売買及び抵当権設定の効力を争つていることに帰着し、この点からするも許されないものとして、棄却すべきである。

よつて、原判決は相当で本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三八四条第一項に則り(尤も右(二)の記載による仮定的判断による場合には原判決は結局相当として同条第二項に則り)これを棄却すべく、控訴費用の負担につき同法第八九条第九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 田中正雄 宅間達彦 井上三郎)

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